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東京地方裁判所 平成5年(ワ)2670号 判決 1997年7月30日

原告

池田実

外三名

右四名訴訟代理人弁護士

大口昭彦

伊東良徳

遠藤憲一

鈴木達夫

被告

全逓信労働組合

右代表者中央執行委員長

伊藤基隆

右訴訟代理人弁護士

小池貞夫

尾崎純理

小沼清敬

主文

一  原告らが被告の組合員としての地位にあることを確認する。

二  被告は各原告らに対し、それぞれ金一〇万円を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分して、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第一項と同旨。

二  被告は原告池田実(以下「原告池田」という。)に対し、金五一〇万円及び平成五年二月以降毎月末日限り金三一万八四八〇円を支払え。

三  被告は原告神矢努(以下「原告神矢」という。)に対し、金五一〇万円及び平成五年二月以降毎月末日限り金三〇万五一六〇円を支払え。

四  被告は原告徳差清(以下「原告徳差」という。)に対し、金五一〇万円及び平成五年二月以降毎月末日限り金三三万六三〇三円を支払え。

五  被告は、原告名古屋哲一(以下「原告名古屋」という。)に対し、金五一〇万円及び平成五年二月以降毎月末日限り金二五万四九一九円を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告の組合員であり、被告の指令に従い争議行為を行ったことを理由に郵政省から懲戒免職処分を受けた原告らが、被告の原告らに対する組合員資格喪失の決定及び犠牲者救済規定(以下「犠救規定」という。)の適用の打切り又は不適用の決定は、いずれも違法無効であるとして、組合員としての地位の確認並びに犠救規定に基づく給与補償及び不法行為に基づく慰謝料の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実等

以下の事実は、末尾に証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。

1  当事者

被告は、郵政省職員等によって組織された全国的単一労働組合であり、原告らは、昭和五四年四月二八日当時、東京郵政局管内の普通郵便局集配課に勤務していた郵政省職員であり、被告の東京地方本部に所属していた組合員であった。

2  懲戒免職処分

被告は、昭和五三年一二月から翌五四年一月にかけて、いわゆる郵政マル生反対闘争を全国的に展開し、原告らは、被告が全組合員に対して発した闘争指令に従い、職場闘争に参加した結果、同年四月二八日付けで郵政省から懲戒免職の処分(以下「本件免職処分」という。)を受けた。

なお、右闘争参加組合員のうち、懲戒処分に付された者は八一八三名、そのうち免職処分を受けた者は五八名で、この被免職者五八名中東京地方本部に所属していた者は原告らを含めて五五名であった。

3  組合員資格継続の承認

被告は、右懲戒処分の撤回闘争(以下「反処分闘争」という。)を組合活動として強力に推進するために、中央執行委員会を中央闘争委員会に切り換え、その中に反処分闘争指導委員会(以下「反処分委員会」という。)を設置し、昭和五四年五月一二日の第五一回中央闘争委員会において、被告が本件免職処分の取消し・撤回を人事院等に求めること及び被免職者の組合員資格の継続を承認することを決定した。被告の全逓信労働組合規約(以下「規約」という。)には、被告組合員が郵政省又はその関連組織を退職した(解雇・免職を含むと解されていた。)場合には当然に組合員資格を喪失する(三九条一項二号)が、その場合でも中央執行委員会が決定をもって組合員資格の継続を認めることができる(同条二項)と定められているので、右中央闘争委員会(中央執行委員会)における資格継続承認の決定により、原告らは、本件免職処分を受けたにもかかわらず、組合員資格を継続されることになったものである。

なお、反処分委員会は、副中央執行委員長を責任者として中央執行委員らを構成員とし、反処分闘争につき各級機関と協議して方針を決定し組織的統一行動をとるべく各級機関を指導することを任務としており、被免職者の任務配置・任務分担についても、反処分委員会の決定に基づくものとされ、地方本部・地区本部を通して同人らを指導するものとされていた(この任務配置を被告では「犠救出向」と呼んでいた。)。

4  免職処分取消訴訟

被告は、反処分委員会の右決定に基づき、原告らを含む被免職者五五名について人事院に対して本件免職処分の不服審査を申し立てるように指導し、原告らは自ら当事者として審査申立てをしたが、人事院は、公平審査を維持していた被免職者五二名中一名を除く全員につき免職の承認判定をした。そこで、さらに被告は、右承認判定を受けた被免職者らについて本件免職処分の取消しを求める訴えを東京地方裁判所に提起するように指導した結果、原告らを含む四六名は、昭和六一年、自ら原告となって訴えを提起した(以下「本件免職処分取消訴訟」という。)。なお、右四六名のうち一名は平成二年八月以前に訴えを取り下げた。

5  犠救規定の仮適用・適用・不適用

(一) 被告の規約五八条及びこれを受けた犠救規定によれば、被告は、その組合員に組合機関の決定に基づく組合活動により、解雇又は免職の処分を受けたことなど被害の救済をしなければならない一定の事由が生じた場合には、中央執行委員会内に設置された犠牲者救済委員会の適用決定に基づき、給与補償などの救済を行うこととされている(以下「犠救制度」という。)。

この被告の犠救制度は、組合員が組合活動の故に不利益を被った場合に、これを組合活動の犠牲者として、その不利益をできるだけ補填しようとする制度であって、この制度の目的は、犠牲者の受けた不利益を救済することによって組合員相互の連帯意識を強め、また、安んじて組合活動に専心できるようにするところにあり、これにより組合員の団結の維持・強化を図ろうとするものである。

(二) 被告は、原告らを含む被免職者五五名に対し、昭和五四年五月二日、中央執行委員会において、被免職者は地方本部・地区本部の掌握と指導の下に行動する原則を確認したうえ、規約二三条一項に基づき、緊急事項の処理として、犠救規定が適用された場合に補償される給与と同額を支給する旨の措置(この措置はその実質的内容からみて「犠救仮適用」と呼ばれた。)をとることを決定し、同決定は昭和五六年七月の第三五回全国大会において承認された。そして、中央執行委員会は、原告名古屋を除く原告らについて、同年九月一日付けで犠救規定を適用する旨決定した。

(三) 原告名古屋は、本件免職処分後、被告の多摩地区本部の下に配属されていたが、昭和五五年三月の第七五回中央委員会において被免職者の任務再配置の方針が決定されたので、これに基づき、反処分委員会は同原告に対し、同年七月一〇日以降全逓共済センターに配属する旨指導した。しかるに、原告名古屋はこれを拒否し、同月一二日にされた警告にも応じず、さらに同年一二月二四日にされた被告運営の江ノ島会館で勤務するようにとの指導にも応じなかった。そこで、中央執行委員会は、同原告について、前記犠救仮適用の措置を継続することはもはや妥当性を失ったものと判断し、昭和五六年一月六日付けで犠救仮適用の措置を一部打ち切り、昭和六一年六月一六日付けで犠救規定を適用しないことを決定した(甲第一九号証、第六八号証、乙第五号証の一ないし四、第六、第七号証、第二六、第二七号証、証人石川正幸及び同久保正則の各証言)。

6  反処分闘争の終結方針

(一) 平成二年八月二二日の反処分委員会の決定

反処分委員会では、本件免職処分後一一年を経過する中で二八名が既に各々の道を歩んでいることに加え、本件免職処分取消訴訟がその進行状況から一審判決を得るまでに相当長期間を要することが予想されるに至り、免職処分撤回の実現もさることながら、個々の被免職者の生涯の生活設計にも多大な考慮を払わざるを得ない時期にあると判断し、被免職者らの郵政省への再就職や関連企業への就職斡旋について精力的な折衝を行ったうえ、平成二年八月二二日、犠救出向している被免職者について、次の①ないし⑤の対処方針を決定した。①郵政職員試験有資格者は一〇月ころ全員職員採用試験を受験する。②郵政関連企業など民間企業への就職を斡旋する。③自立の途を進める。④犠救規定適用の特例を行う。⑤本件免職処分取消訴訟は取り下げる(乙第一二号証、証人河須崎暁の証言)。

なお、右方針は、同月二八日から三〇日にかけて開催された東京地方本部大会及び同年一一月一六日の第九七回中央委員会で承認された。

右中央委員会の承認を受けて、反処分委員会は、同月二〇日、犠救規定適用の特例として、被告の組合員籍を離脱する者に対し、最高一〇〇〇万円の特別加算金を支払うことを決定し、所属地区本部を通じて原告ら関係者にその旨通知した。

(二) 職員採用試験受験等

平成二年八月二二日の反処分委員会の決定に基づき、被免職者のうち一四名は、平成三年二月二四日に実施された東京郵政局の職員採用試験を受験することとし、その他の者は郵政省又は被告の斡旋により関連企業への就職を決意したり、自立の道を選ぶなどした。さらに、平成二年一〇月三〇日までには、既に就職し、あるいは自立していた者も含め、被免職者三九名が本件免職処分取消訴訟を取り下げる旨の意思を表明し、平成三年三月一一日、取下書を提出した。ところが、同月一六日、右採用試験の受験者は全員不合格となった。

(三) 第九九回臨時中央委員会の決定

右採用試験の結果を踏まえて、中央執行委員会は、平成三年五月二二日開催の第九九回臨時中央委員会に反処分闘争の終結に向けた次の①ないし⑥の提案をし、承認された。①一二年に及ぶ歳月の経過と重み、取り巻く状況の変化等を勘案し、反処分闘争について、組織的に整理し、終結を図る。②したがって、本臨時中央委員会以降は、郵政省への再採用の道及び裁判闘争は断念する。③犠牲者救済の扱いは、これまでの反処分委員会の決定と規定に従って対処する。④受験者の就職先確保に努め、組織の責任で生活基盤の確立に全力を傾注する。⑤右③④については、同年六月末日までの間に終了する。⑥昭和五四年五月に発足した反処分委員会は、本臨時中央委員会をもって解散する。

(四) 第三四回中央執行委員会の決定

右臨時中央委員会の決定を受けて、被告では、平成三年六月一七日開催の第三四回中央執行委員会において、反処分闘争の終結に関し、次の①ないし⑥の具体的措置をとることを決定し、同年七月九日開催の第四五回全国大会において承認を受けた。①現在犠救出向中の者で郵政局職員採用試験を受験し、採用されなかった者については、就職斡旋を行い、生活基盤の確立に全力を傾注する。②この際、就職斡旋を辞退し、自立の道を選択する者については、その意思を尊重する。③右の①②の者に対する犠救規定適用の特例措置は、平成二年一一月二〇日の反処分委員会の決定のとおり清算して支払う。④右の①②③の措置は平成三年六月末日までに終了する。⑤第九九回臨時中央委員会の決定及びこの決定に基づく指導に従わない者については、同年六月末日をもって一切の犠救規定適用を打ち切る。⑥犠救出向者の有する組合員籍は、右の①ないし⑤の措置により同年六月末日をもって喪失する。

その後、右③④に基づき、組合員籍の離脱を承諾した者に対しては、離脱時に特別加算一時金と五割加算された退職金が支給された。

7  組合員資格喪失と犠救規定適用打切りの通知

被告は、平成三年六月二四日、中央執行委員長名義で原告らに対し、同月三〇日付けで組合員資格を失う旨の「組合員・特別組合員資格喪失の通知」を発するとともに、原告名古屋を除く原告らに対し、「人事異動通知書」をもって、同人らに対する犠救規定適用は同月三〇日で打ち切り、同人らの犠救出向も同日までとする旨の通知をした。

二  争点

1  原告らに対する組合員資格喪失決定の適法性

2  原告池田、原告神矢及び原告徳差に対する犠救規定適用打切り決定の適法性

3  原告名古屋に対する犠救規定不適用決定の適法性

4  原告らが受けるべき救済措置の内容

5  組合員資格剥奪及び犠救打切りによる不法行為の成否

三  当事者の主張

1  争点1(原告らに対する組合員資格喪失決定の適法性)について

(一) 原告ら

(1) 被告の規約上、組合員は均等取扱いを受ける権利を有する(四〇条一項一号)から、中央執行委員会の決定により組合員資格の継続を認められた組合員と、そうでない組合員とで、組合員資格の喪失事由を異にするいわれはない。

ところで、被告の行った組合員資格喪失決定は、実質において組合員資格の剥奪にほかならないところ、被告の規約において、組合員がその意思に反してその資格を喪失する事由として定めるのは、除名(三九条一項三号)及び再登録拒否(同項六号)以外にはないから、被告は、規約所定の事由及びその手続によらないで組合員資格を剥奪することは許されないというべきである。

仮に、中央執行委員会の裁量により組合員資格を喪失させることができるとしても、被告の行った組合員資格喪失決定は、その裁量に合理的な理由が全く存在しないから、裁量権の濫用に当たり、違法無効である。

(2) よって、原告らは、被告の組合員としての地位の確認を求める。

(二) 被告

被告の規約によれば、被告の組合員資格は、郵政省又はその関係組織の職員又は社員としての身分を有することを前提としており(三七条、別表第一「組合員」(1)ないし(5))、解雇又は免職により職員等の身分を失った者は、通常当然に組合員資格を喪失する(三九条一項二号)が、組合活動を理由に解雇・免職の処分を受けた者については、中央執行委員会が右処分の効力を争い法的手続をとることを決定した場合は、その決定をもって組合員資格の継続を認めることができる(同条二項、別表第一「組合員」(6))。このようにして組合員資格の継続を認められた組合員は、そうでない組合員と異なり、その資格の根拠は中央執行委員会の自主的判断にあるのであるから、その資格を喪失させるか否かもまた中央執行委員会の自主的判断に委ねられるものである。

中央執行委員会が原告らの組合員資格の継続を認めたのは、被告の組合活動として本件免職処分の取消し・撤回を求める法廷闘争等を推進するためであり、犠救規定の適用もそのためであった。ところが、その後、被告は運動方針を変更し、本件免職処分取消訴訟の取下げを含め、反処分闘争を終結することを決定したため、中央執行委員会では、原告らの組合員資格継続の目的が終了したものと判断し、規約三九条、別表第一「組合員」(6)に基づき、原告らの組合員資格を喪失させる旨決定した。右決定は全国大会でも承認されており、その正当性に何ら問題はない。したがって、原告池田、原告神矢及び原告徳差は、右決定に基づき、平成三年六月三〇日をもって組合員資格を喪失したものである。なお、原告名古屋については、犠救規定不適用の決定により組合員資格継続の目的が終了したから、同原告は、右決定のなされた昭和六一年六月一六日をもって組合員資格を喪失した。

2  争点2(原告池田、原告神矢及び原告徳差に対する犠救規定適用打切り決定の適法性)について

(一) 原告池田、原告神矢及び原告徳差

(1) 犠救規定適用の義務性

被告の規約上、組合機関の決定に基づく組合活動を理由に解雇又は免職された者については、犠救規定適用の打切りをすることはできないというべきであるから、被告の行った犠救規定適用打切り決定は違法無効である。

(2) 裁量権の逸脱ないし濫用

仮に、中央執行委員会の裁量により犠救規定適用の打切りができるとしても、それができるのは、適用対象者が明らかに団結を害する行為を行った場合か、労働組合が存亡の危機に至るほど財政事情が悪化した場合に限られると解すべきところ、本件ではそのような事情は存在しないので、被告の行った犠救規定適用打切り決定は、その裁量の範囲を逸脱したものであり、裁量権の濫用に当たり、違法無効である。

(3) 手続違背

被告の行った犠救規定適用打切り決定は、これに関する中央委員会の決定及び全国大会の承認に組合員の総意を問う手続が欠けていたから、違法無効である。

(二) 被告

被告の犠救制度は、組合員の団結の維持・強化のための制度であるから、救済事由が生じた場合の救済の可否及び内容に限らず、救済の変更及び終了についても中央執行委員会に裁量が認められているというべきである。

3  争点3(原告名古屋に対する犠救規定不適用決定の適法性)について

(一) 原告名古屋

(1) 裁量権の逸脱

原告名古屋に対する任務再配置の指導は犠救規定上の根拠も合理性もないものであり、かつ、組合民主主義に反するものであるから、これに従わなかったことを理由とする犠救規定不適用決定は、裁量権の逸脱であり違法である。

(2) 手続違背

原告名古屋に対する犠救規定不適用決定に至る手続には、犠救仮適用の打切りが反処分委員会によってなされているところ、その規約上の根拠が不明であること、犠救規定適用の留保の通知がないこと、犠救規定不適用決定が犠救委員会でなされるべきところ中央執行委員会でなされていることなどの違法が存在する。

(二) 被告

中央執行委員会は、原告名古屋が被告機関による任務再配置の指示に一切応じないため、「労働可能な状態にあっても機関の指導に従わない場合」に当たると判断し、犠救規定一八条四号、五一条に基づき、犠救規定の全部を適用しないことに決定したものであり、右判断及び手続に違法はない。

4  争点4(原告らが受けるべき救済措置の内容)について

(一) 原告ら

(1) 犠救規定によれば、原告らが受けるべき給与補償は、次のとおりである。

① 犠救打切り時から平成五年一月末日までに支払われるべき犠救給与合計額

原告 池田 七五一万四二六八円

原告 神矢 七二五万二四七六円

原告 徳差 八〇二万四九五五円

原告 名古屋三六三四万〇〇三五円

② 平成五年二月以降毎月支払われるべき犠救給与額

原告 池田 三一万八四八〇円

原告 神矢 三〇万五一六〇円

原告 徳差 三三万六三〇三円

原告 名古屋 二五万四九一九円

(2) よって、原告らは被告に対し、犠救規定に基づく給与補償の一部として、平成五年一月末日までに支払われるべき犠救給与のうちそれぞれ五〇〇万円に加え、同年二月以降毎月末日限り、原告池田は三一万八四八〇円、原告神矢は三〇万五一六〇円、原告徳差は三三万六三〇三円、原告名古屋は二五万四九一九円の各支払を求める。

(二) 被告

争う。

5  争点5(組合員資格剥奪及び犠救打切りによる不法行為の成否)について

(一) 原告ら

(1) 原告らに対する組合員資格喪失決定による組合員資格剥奪並びに原告池田、原告神矢及び原告徳差に対する犠救規定適用打切り決定及び原告名古屋に対する犠救規定不適用決定による犠救打切りは、被告が自己の誤った運動方針を強行するためにしたものであり、憲法二八条及び犠救規定の趣旨に反する不法行為である。

原告らは、被告の右不法行為により、組合活動ができなくなったうえ、著しい生活上の危機に陥った。これによる精神的損害を金銭に評価するならば、原告らそれぞれにつき一〇〇万円を下らない。

(2) よって、原告らは被告に対し、不法行為による慰謝料の一部として、それぞれ一〇万円の支払を求める。

(二) 被告

争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1(原告らに対する組合員資格喪失決定の適法性)について

前記争いのない事実等6の(四)及び7によれば、被告は原告らについて中央執行委員会の決定により組合員資格を喪失させたというのであるが、組合員資格を喪失させることは、実質において組合員資格の剥奪にほかならない。ところで、被告の規約上、組合員がその意思に反してその資格を喪失する事由として定められているのは、除名の制裁を受けたとき(三九条一項三号)並びに再登録の申請をしなかったとき及び右申請が拒否されたとき(同項六号、三九条の五第二項、三九条の六第二項)以外にはない。したがって、被告は、規約所定の除名事由及びその手続又は再登録要件及びその申請・審査手続によらないで組合員資格を剥奪することは許されないと解すべきである(最高裁判所第一小法廷昭和六二年一〇月二九日判決・裁判集民事一五二号六三頁参照)。

そうすると、原告名古屋について、同原告に対する犠救規定不適用決定をもって組合員資格を喪失させる事由とすることができないのはもとより、中央執行委員会の決定をもって原告らの組合員資格を喪失させることもできない理といわざるを得ない。同決定が全国大会の承認を受けたものであるとしても、被告の規約の定めに基づくものでない以上、右の判断を左右するものではない。

被告は、組合員資格の継続を認められた組合員は、そうでない組合員と異なり、その資格の根拠は中央執行委員会の自主的判断にあるのであるから、その資格を喪失させるか否かもまた中央執行委員会の自主的判断に委ねられるものである旨主張する。しかし、労働組合における組合員の資格の得喪は、組合員に関する最も重要かつ基本的な事項であるから、組合の規約に定める組合員資格の得喪の事由及び方式に関する規定は厳格に解釈すべきところ、被告の規約上、資格の継続を認められた組合員とそうでない組合員との間には何ら差異が設けられていないばかりか、かえって、組合員は均等取扱いを受ける権利を保障されている(四〇条一項一号)ことからすると、組合員資格の継続が中央執行委員会の判断に基づくものであるからといって、直ちに組合員資格の喪失までその判断に委ねられていると解することは困難である。

したがって、被告の組合員としての地位の確認を求める原告らの請求は理由がある。

二  争点2(原告池田、原告神矢及び原告徳差に対する犠救規定適用打切り決定の適法性)について

1  被告の犠救規定(甲第一号証)によれば、犠救制度の運用について、「この規定の運用は、中央執行委員会の責任においておこなうものとし、中央執行委員会に犠牲者救済委員会(以下「救済委員会」という。)を設置し、具体的な救済を決め一切の事務に当る。」(三条)と、救済の範囲及び内容について、「犠牲者に対する救済の範囲および内容は、この規定により、その事由、客観的条件その他の事情をもとに決定する。」(五条)とそれぞれ規定されており、給与補償については、「組合員である間満六〇歳に達するまで郵政省より当然うけるべき給与及び諸手当を支給し、給与改定については公労法適用郵政省職員に準じて取り扱う。」(一八条本文)ものとされている一方、「労働可能な状態にあっても機関の指示に従わない場合」(同条四号)、「その他救済委員会が必要と認めた場合」(同条五号)などには、「その全部または一部を支給しない。」(同条ただし書)と規定されているだけでなく、一般に救済すべき事由が生じた場合の救済の内容についても、「中央執行委員会の議を経て実情に応じて減額しまたは一部乃至全部を適用しないことがある。」(五一条)と定められている。

これらの規定によれば、救済事由が生じた場合の救済の可否及び内容に限らず、救済の変更、終了についても中央執行委員会に裁量が認められているものと解することができ、また、このように解したとしても、組合員の団結の維持・強化を図ることを目的とする犠救制度の趣旨に直ちに反することになるものではないから、中央執行委員会は、一旦犠救規定の適用を決めた後でも、自己の責任においてその適用を打ち切ることができるものと解すべきであり、組合機関の決定に基づく組合活動を理由に解雇又は免職された者については、犠救規定の適用の打切りはできないとする原告らの主張は採用できない。

2 もとより、被告の犠救制度は、それにより組合員の団結の維持・強化を図ることを目的とするものであるから、犠救制度の運用についての中央執行委員会の裁量は、その目的に沿う限度で許されるというべきであるが、犠救規定適用の打切りについて、原告らが主張するように適用対象者が明らかに団結を害する行為を行った場合や労働組合が存亡の危機に至るほど財政事情が悪化した場合に限らなければならないとする根拠はない。そして、犠救制度の具体的な運用が組合員の団結の維持・強化という目的に反しているか否かは、その時々における被告の組合としての運動方針とも深く関わるものであるから、その手続が規定に反していることが明らかな場合や同一事案において個々の対象者につき取扱いに差別・不公平があるなど著しく裁量の範囲を逸脱しており、犠救制度の目的に反することが明らかな場合を除き、原則として、その運用は被告の自主的判断に委ねられており、その裁量の範囲内にあるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、原告らが明らかに団結を害するような行為をしたとか、被告が存亡の危機に至るほど財政事情が悪化したといった事情は窺われないが、甲第一号証、乙第二四、第二五号証及び証人石川正幸の証言によれば、被告は昭和三三年以降本件免職処分までの間に約二五〇名の解雇・免職者に対して犠救規定を適用してきたが、そのうち三年以上給与補償を受けていた者は二割に満たず、一二年以上適用されていた者はわずか三名のみであること、昭和四七年の被告の第二五回全国大会において、解雇・免職後三年を経過した者については書記への身分の切換えや他への就職斡旋等を行うことを原則とし、それ以降は一部あるいは全部の犠救金の支給をしないとの取扱基準が確認されていたことが認められる。これらの事実に加え、前記(争いのない事実等6)の被告が原告らについて犠救規定適用打切りを決定するに至った事情や打切りに際し組合員籍を離脱した者に対して相当額の特別加算金及び割増退職金が支給されていることなどの事実を併せ勘案すると、被告の行った犠救規定の適用打切りが犠救制度の目的に反することが明らかで、中央執行委員会の裁量の範囲を逸脱しているとは認めがたい。

3  また、原告らは、手続違背の点を主張するが、第三四回中央執行委員会における原告らに関する犠救規定適用打切り決定が第九九回臨時中央委員会の反処分闘争の終結に向けた決定に基づくものであり、その後第四五回全国大会の承認を受けたものであることは前記(争いのない事実等6の(三)及び(四))のとおりであるところ、これらの決定及び全国大会の承認の手続が違法であるとする事情は認められない。

4  以上のとおりであるから、被告の行った犠救規定適用打切り決定が違法無効であることを前提とする原告池田、原告神矢及び原告徳差の給与補償の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

三  争点3(原告名古屋に対する犠救規定不適用決定の適法性)について

1  原告名古屋については、前記(争いのない事実等5の(三))のとおり、同原告が中央執行委員会の任務再配置の指示に従わなかったことから、昭和六一年六月一六日付けで犠救規定を適用しないことが決定されたものであるところ、これは被告の犠救規定一八条四号、五一条に基づいて行われたものと認められ、その判断及び手続に違法があるとはいえない。

原告名古屋は、右任務再配置の指導は犠救規定上の根拠も合理性もないものであり、かつ、組合民主主義に反するものであるから、これに従わなかったことを理由として犠救規定を適用しないことは、裁量権の逸脱であり違法である旨主張する。しかし、犠救制度の運用については、先に判示した(争点に対する判断二の2)のとおり、原則として被告の自主的判断に委ねられているところ、原告名古屋に対する犠救規定不適用決定について、犠救制度の目的に反することが明らかで、中央執行委員会の裁量の範囲を逸脱していると認めるに足りる事情は認められないから、同原告の右主張は採用できない。

また、原告名古屋は、犠救規定不適用決定に至る手続には、犠救仮適用の打切りが反処分委員会によってなされているところ、その規約上の根拠が不明であること、犠救規定適用の留保の通知がないこと、犠救規定不適用決定が犠救委員会でなされるべきところ中央執行委員会でなされていることなどの違法が存在する旨主張する。しかし、同原告に対する犠救仮適用の打切りは、前記(争いのない事実等5の(三))のとおりの経緯で中央執行委員会によってなされたものであって何ら違法ではないし、犠救規定適用の留保について対象者に通知することは被告の規約上要求されていない。また、犠救制度の運用は、中央執行委員会の責任において行うものとされている(犠救規定三条)ことは先に判示した(争点に対する判断二の1)とおりであり、他に被告の行った犠救規定の不適用決定に至る手続に違法があるとする事情は認められない。

2  以上のとおりであるから、被告の行った犠救規定不適用決定が違法無効であることを前提とする原告名古屋の給与補償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  争点5(組合員資格剥奪及び犠救打切りによる不法行為の成否)について

先に判示した(争点に対する判断一)とおり、被告の中央執行委員会による原告らの組合員資格を喪失させる決定は違法無効であるが、原告神矢及び原告徳差各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告の右決定に基づく取扱いにより、原告らは、組合事務所への立ち入りを禁止されるなどして組合活動を妨げられているほか、組合役員選挙での選挙権・被選挙権の行使もできないなど、被告の規約が保障している組合員としての権利の行使を不可能にされ、精神的に相当の苦痛を被っていることが認められる。

以上の事実によれば、被告の原告らに対する右決定に基づく取扱いは不法行為を構成するものといわざるを得ず、これにより原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料は、本件に顕れた諸般の事情を斟酌すれば、原告らそれぞれにつき一〇万円をもって相当と認める。

なお、被告の行った犠救規定適用打切り決定及び不適用決定は、先に判示した(争点に対する判断二及び三)とおり、中央執行委員会がその裁量の範囲内で行ったものであり、違法とは認められないから、右各決定をもって不法行為を構成するものとはいえない。

五  結論

以上のとおりであるから、原告らの本件請求は、被告の組合員としての地位の確認と被告に対して原告らそれぞれ不法行為に基づく慰謝料一〇万円の支払を求める限度において理由があるからその範囲で認容し、その余は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官萩尾保繁 裁判官片田信宏 裁判官西理香)

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